1980年代の文房具といえば、システム手帳ブーム抜きには語ることが難しい。

1986年(昭和61年)10月、書籍『スーパー手帳の仕事術』(山根一眞 著・ダイヤモンド社 刊)によってファイロファックスはビジネスマンやクリエイターのマストアイテムとなり、瞬く間にそれはブームとなった。
『スーパー手帳の仕事術』を読み、システム手帳の最高級ブランドであるファイロファックスに憧れたわたしだったが、大学生にとって36,000円の舶来革装手帳は手が届かない存在でもあった。

しかし、システム手帳ブームはファイロファックス単体で発生したものではない。
その後フォロワーである様々なメーカーが、ファイロファックス同様のバイブルサイズ6穴バインダーを次々と発売していく。それと同時にリフィルメーカーも急速に増え、ここで本当の意味でのシステム手帳ブームが到来する。

大学生のわたしでも購入できる、塩化ビニール製のシステム手帳も発売された。「社会人になったらファイロファックス」を合い言葉に、わたしはバインダーではなくリフィルを拡充させるようになる。それも、市販品を購入するのではなく、ワープロでオリジナルリフィルを作る方法で。
1枚に半年分を詰め込んだ左右拡張式スケジュールリフィル、200字詰め原稿用紙、小説設定用プロジェクトリフィル……ワープロがあれば何でもできた。24×24ドットの粗い印字でも、作るのが本当に楽しかった。

ほどなく専門ムック『リフィル通信』がアスキー社から発刊される。その創刊プレゼントに載っていたのが、ファイロファックス・ジョッターだった。
数枚のメモ用リフィルだけを持ち歩きたいと思っていたわたしにとって、このファイロファックス・ジョッターはまさに待ち望んでいたものだった。憧れのファイロファックス純正グッズでもある。
アンケートハガキに自作リフィルを作る大学生であることを記入し、投函した。

続く『リフィル通信スペシャル』に、ファイロファックス・ジョッターのプレゼント当選者としてわたしの名前が載っていた。
以降、社会人となった以降も愛用していたのだが、残念ながら就職後の転勤等で引っ越しを繰り返した際に紛失してしまい、いま手許にファイロファックス・ジョッターはない。

現在、システム手帳のグッズとしてジョッターを用意しているメーカーは存在しない。バイブルサイズのリフィルは大きさも手頃で種類も多く、まだまだ活用できると思っている。ブームは去ってしまったが、どこかで革製ジョッターを発売してくれるところはないものかと、今でも夢見ることがある。

蛇足ではあるが、『リフィル通信スペシャル』には「システム手帳の愛用者・大学生代表」としてわたしのインタビュー記事が写真入りで掲載された。大学生がシステム手帳を使用すること自体がまだ珍しかったのだろう。
たった一年でわたしは、読む側から語る側にシフトしていた。
「オリジナル・リフィルを作るのが楽しい」「僕は文房具ファンです。だからシステム手帳は手放せません」などとドヤ顔で語っているのを見ると、今となっては苦笑するより他にない。
もうこの頃から、わたしは今と変わらぬ文房具マニアだったのだ。