■概要

世界各地に眠る財宝を求め、トレジャーハンター「ネイト」ことネイサン・ドレイクが世界を股に掛けた大冒険を繰り広げる。2007年、プレイステーション3用に発売されたアクション・アドベンチャーゲームで、シリーズ1作目の『エル・ドラドの秘宝』(PS3 / PS4)、2009年の第2作『黄金刀と消えた船団』(PS3 / PS4)、2011年の第3作『砂漠に眠るアトランティス』(PS3)、2016年の最終作『海賊王と最後の秘宝』(PS4)と計4本のメインシリーズが制作されている。世界での累計出荷数は2,100万本以上。2009年のゲーム・オブ・ザ・イヤーをはじめ世界の主要ゲーム賞も数多く受賞しており、名実共に世界最高のゲームのひとつ。


■「最も映画らしいゲーム」、『アンチャーテッド』シリーズ

カリフォルニア州サンタモニカのゲームメーカー「ノーティードッグ」の看板タイトルがこの「アンチャーテッド」シリーズだ。トレジャーハンターの主人公ネイサン・ドレイクを操り、世界の秘境や古代遺跡に眠る隠された財宝を探して痛快なアクションを繰り広げる。時に壁をよじ登ったり、時に崖から崖へと飛び移ったり、あるいは数十メートルの高さから滝壺に飛び込んだり殴り合ったり銃を撃ちまくったりジープを転がしまくったり爆弾を投げつけたり……。ネイトさん、とにかく毎回大変なことになっている。

外伝を除くとこれまで4作のメインシリーズがリリースされているが、ストーリーは2016年の『海賊王と最後の秘宝』でこれ以上ないほど見事な大団円を迎えている。あまりに綺麗なエンディングに象徴されるように、とにかく見応えのあるストーリーとダイナミックな演出のつるべ打ちで、ゆえに本作は「映画的」と評される事が多い。(1作目のキャッチコピーはずばり、「PLAYする映画」だ)

そうした評価の理由は他にもある。世界最高峰のクオリティを誇るキャラクターおよび背景のコンピューターグラフィック。特にディテールの造りこみは現行世界最高峰だろう。また、ムービーを多用し、体力ゲージやマップ表示を廃して画面から「アクションゲームらしさ」を消臭したこともあるだろう。ムービーの演出やそもそもの世界観が『インディ・ジョーンズ』的……もっと言えば、その元ネタである1910年代~20年代の連続活劇のマナーに則っているのも、本作を「映画的」と強く感じさせる要因だろう。

だがしかし、当たり前の話だが、『アンチャーテッド』はゲームである。同じTPSでも、たとえば『グランド・セフト・オート』や『フォールアウト』といったオープンワールド・スタイルではなく、基本的には一本道のストーリーテリングだ。ゲーム内で出来ることは実は相当限られているし、寄り道もほとんどできない。決められたラストに向かって一直線に進む語り口こそ映画らしいと言えなくもないが、しかし操作を間違えればネイトはすぐ死ぬ。これがゲームでなくて一体なんだというのか? むしろ、ここまで構築された空間の中で自在にキャラクターを動かす、その歓びこそゲームらしいとも言える。つまり『アンチャーテッド』シリーズは、映画の話法を最大限まで持ち込むことで、ゲームとしての新たなポテンシャルを引き出そうと試みているのだ。

■ネイトの尻ポケットに収まる魅力的な手帳

モレスキン クラシックノートブック

こうした『アンチャーテッド』シリーズを実際にプレイした、あるいはプレイ動画を見たことのある人なら分かると思うが、主人公のネイトはよく手帳を開く仕草をする。ちょうどモレスキンノートのラージサイズぐらいだろうか。地図やヒントの書かれた紙片を参照したり、仕掛け扉や罠を解除するための手順を鉛筆(DIXON社のものに見える)でサラサラと走り書きしていく。この手帳の風合いが何ともたまらなくいいのだ。

紙面には古びたチケットやいわくありげな人物の写真などが無造作にスクラップされている。ラフな殴り書きのメモ、力強く描き込まれたデッサンもある。謎解きの場面では頻繁にこの手帳を開くことになるのだが、そのとき毎回必ずカメラがグッと近づき、紙がパラパラとめくれるアクションが入る。このあたり、ノーティードッグは分かってらっしゃる。紙の日焼け具合、小口の汚れ、使い込んだ角の折れ具合、どれをとっても心得たウェザリングで、モレスキン愛好家が思わずうっとりするようなディテールに満ちあふれている。このノートを無造作に尻ポケットに突っ込む仕草がまた見たくなり、つい不要な場面でボタンを連打してしまうのだ。

ゲームの快楽のひとつに、ボタンやレバーを押し込んだ時、ジャストなタイミングでキャラや自機が反応するという、フィジカルな快感がある。言い換えればそれは純ゲーム的な快感と言ってもいい。そしてこの快楽は、自分の手が直接感知するという点で、実は文房具的快楽に近いものなのだ。

だが『アンチャーテッド』では、実際に文房具に触れているのはゲームのキャラクターであり、プレイヤーたる我々はそれをモニター越しに眺めることしかできない。とても魅力的な手帳が目の前で完成していく様子を、ただ指をくわえて眺めるしかないのである。ぎりぎりまで文房具に接近しながら、絶対に触れられないそのもどかしさは、しかし不思議と不快一辺倒というわけでもない。決して自分ではモノに出来ない憧れのノートを見つめて羨む、その不健康で後ろ暗い愉しみも、文房具ファンなら誰しもひそかに心得ているからだ。

やはり、どこまで言ってもゲームはゲームである。しかし『アンチャーテッド』シリーズは、最良の文房具鑑賞体験ができる最高のゲームなのだ。

 

追記:ちなみに『アンチャーテッド』シリーズには、文具に限らず古書・古地図・古文書・アルバムといった紙ものの小道具が次々と登場し、そのどれもが小憎らしいほどよく出来ている。内部に絶対スキモノがいるはずだ。

追記2:現時点(2017年12月)でのシリーズ最新作、ダウンロードコンテンツの追加エピソード『古代神の秘宝』になると、主人公の女性トレジャーハンター、クロエ・フレイザーはすべてスマートホンのカメラをメモ帳代わりに使っている。現代の文房具の有り様を突き詰めた結果として、これは全く正しい。全く正しいのだが、文房具ファンとしてはやはりちょっと寂しい。