いま、文房具業界でちょっとした遊びが流行っているのをご存じだろうか。
パイロットからこの7月に発売された万年筆『カクノ 透明軸』の軸に可愛いものを詰め込むという遊びだ。

すまない。分からない人にとっては初手から“ピンとくる要素”ゼロの説明だったと思うので、改めて説明させて欲しい。
まず、パイロットのエントリーモデル万年筆『カクノ』(定価1000円+税)の新ラインナップとして、2017年の7月に透明軸モデルが発売された。

この透明カクノ、透明軸だけにコンバーター(インクを吸い上げて使う万年筆用のインクタンク)中のインクが透けて見えてキレイ、と万年筆女子の間で発売当初からかなりの人気となった。
さらに、小さいコンバーター『Con40』を使うと軸の中にけっこうな隙間ができるのに気づいた誰かが、「空いてるとこにビーズとか入れたらキレイじゃない?」と言い出したのがきっかけで、ビーズや天然石、切り紙細工といった“小さくて可愛いもの”を透明軸に詰め込むカスタムがいま流行中…という話である。

ビーズや天然石を詰め込むだけで、このキラキラ感。

そもそも文房具マニアという生物は、無駄な隙間を許さない。
筆箱にもし隙間あらばギチギチになるまでペンを詰め込み、手帳の余白は可能な限り書き込みで埋める。シャープペンシルの芯タンクまで隙間を許さず、常に予備芯で満たしている。
そんな彼ら彼女らが、透明軸で丸見えとなったコンバーターの隙間を見逃すはずはない。この透明軸詰め込み遊びは、文房具マニアの本能に訴えかける楽しさがあるのだ。

写真中の赤い部分が、文房具マニアを狂わせる魔性の「隙間」。

文房具マニアの端くれとしては、この遊び、流行っているからには乗りたい。
とはいえ、40代男子があまりキラキラしすぎているのもちょっとつらい。できればビーズとか天然石じゃなくて、土とか草とかフィギュアを詰め込んだ方が個人的にはやりやすいのだ。

ということで、カクノ透明軸に土とか草とかフィギュアを詰めて狭小ジオラマを作る試みに挑戦したい。

 

透明万年筆にキラキラとジオラマを同居させる

実はこのカクノの隙間を見たとき、僕が最初に感じたのは「Nゲージジオラマ用のミニフィギュアが入るんじゃないかなぁ」だったのだ。
うん、たぶん入ると思うのだ。ということで、軸の中にフィギュアを立たせる土台を作るところから始めよう。

軸後端の穴をUV硬化補修材『BONDIC』で埋める。これが便利すぎて、もう最近こればっかり使ってる気がする。

まず最初にしなければならないのは、穴埋めだ。
カクノの軸後端には誤飲時のフェイルセーフとして小さな穴が2つ空いている。これを事前に埋めておかないと、上から入れた土が全部サラサラと下に落ちてしまう(というか、落ちた)。
なので、紫外線を当てると数秒で硬化する透明補修材で穴をふさいでおく。

指が汚れているところは気にしないで欲しい(うっかりインクこぼした)。

穴をふさいだら、ジオラマ用の目の細かい土を注いで、水で薄めた木工用接着剤をたらして固める。さらに上から芝生を表現するグリーンパウダーを注いで、また固める。
これで土台は完成である。というか、さすがにこの面積でこれ以上の地形表現は難しい。

Nゲージジオラマ用のフィギュアは種類が豊富なので楽しい。

続いて用意するのは、Nゲージジオラマ用のフィギュア。安いものだと12体で800円だが、高いのはこのサイズ2体で3000円とかする。今回用意したのは安いやつ。
このフィギュア、「ジオラマにどう使うのか意味が分からない」的な変なモノがいっぱいあって楽しい。相撲の力士とか彫刻を彫る人とか、何に使うんだ。
(ドイツのPreiser社製が質・量とも最高なので、時間があったらぜひ見て欲しい。1:160がNゲージ用。1:87のHOゲージ用が最もラインナップ豊富ですごい)

で、このフィギュアを土台の上に立たせて接着したら、完成。

万年筆内結婚式。
私たち、幸せになります(万年筆の中で)

いちおう、流行元のキラキラ感に合わせて結婚式という晴れの舞台を演出してみたのだけど、実際に作ってみると、なぜか「遺伝子を残すために培養カプセルの中で実験的に結婚させられ、一生をここで過ごす男女」というディストピア結婚式にしか見えない。
どうにも、透明のカプセル状空間が良くないらしい。

そうか、どうせディストピア感が出るなら、最初からそういう方向性でも良かったかもしれない。

 

透明軸万年筆に脳を詰める

透明カプセル+ディストピアといえば、アレだ。脳だ。
カプセルの培養液の中に何本もチューブをつながれた脳が浮いてて、なんかポコポコと泡が出てるやつ。映画『ルパンVS複製人間』のマモー的な。

脳職人の朝は早い。カクノ軸に入る最適な脳のサイズを求めて試作を繰り返すのだ。

そう思っちゃったんだからもう仕方ない。クラフト用の軽量粘土をひも状に伸ばしてコネコネと丸めて脳を作るのだ。
チューブは、細い短芯ビニールコードを貼り付ければ、それっぽくなるだろう。

この時点で早くもなかなかの気持ち悪さ。もはやキラキラ要素はゼロだ。

あとは、チューブにつながれた脳を軸に押し込んで、上から培養液としてUV硬化の透明レジンを流し込んで固めるだけ。

バイオ脳入り万年筆。

ここであえてレジンから気泡を抜ききらず、少し残しておいた。
カプセル・脳・チューブ・ポコポコの気泡は、これでワンセットなのだ。もう少し細かい気泡になれば良かったが、まぁ良しだ。
あと、透明度のある赤インクが「脳から抽出したなにか」っぽくて、雰囲気も出ていると思う。

 

おまけとしての文房具ジオラマ

本題としてはここまででいいのだが、カクノに詰め込む予定で買い込んだフィギュアがサイズに合わず残ってしまったので、もうひとつ工作をしてみた。

ノギス代わりに便利な、ミドリ『厚みを測れる定規』

自宅にあったクリアブルーの定規がキレイだったので、そのまま海にする。
ディストピア万年筆のフォローとして、ちょっとさわやか系の情景も作っておきたいのだ。

水深は無理だけど釣った魚の厚みぐらいは測れる定規。
水はジェルメディウム(絵の具に混ぜてツヤや盛り上げを作るジェル状の画材。乾くと透明に硬化する)を使用。
さわやかな夏の情景を定規で表現。

そろそろ残暑も去って涼しくなる頃合いだが、夏の思い出として置いておく。