弊社モリイチはご存じの通り文房具店なのだが、それとは別にいわゆる外商と呼ばれる「企業様への納品」「オリジナルのノベルティを作る」といったこともやっております。ハイ。

で、実は先日こんなノベルティのご依頼をいただき、作成いたしました。

超かわいいオリジナル柄のコクヨ『測量野帳』と、ロゴ入りパイロット『opt』

今回ご依頼いただいたのは、宇宙ビジネスコートさま。一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構が運営する、宇宙ビジネスに関わる人たち向けのポータルサイトだ。

宇宙ビジネスのアイデアコンテスト『S-BOOSTER 2017』

このノベルティを納品する際に「いまウチでやってる『S-BOOSTER 2017』の最終選抜会を今度やるから、良かったら見に来なよ」とご招待いただいたのだ。
で、「あれ、いいんですか?じゃあせっかくなんで」ぐらいのノリで見に行ったら、これがなかなか面白かったのだ。

 

宇宙ビジネス、カタいのからヤワらかいのまで

「宇宙ビジネス」というとピンとこないけど、例えば人工衛星から田んぼを観測して稲のベストな収穫時期を測ったり、民間でロケットを開発したり、変わったところだと「人工流れ星」を作って見せるエンタメ事業なんてのも。
要するに、宇宙に関わるお仕事は全部宇宙ビジネスということ。
そしてこの『S-BOOSTER 2017』というのは、新しい宇宙ビジネスの企画を募る、オープン参加のアイデアコンテストだ。

事前に概要をチェックすると、イベントの主催が内閣府!
となるとガッチリお堅いイベントかと思っていたのだが、まず会場が六本木ニコファーレで、さらにイベントはニコニコ動画で生中継されるという。
さらに、300件以上の応募から今回の最終選抜に残ったファイナリスト15組は、もちろんガチガチのお堅いプレゼンがほとんどなんだけど、たまに「え、これ宇宙か?」ぐらいのふやんふやんに柔らかいものも混じり込んでいる。

例えば、今回もっともふやふやな柔らかプレゼンだったのが、『氷と宇宙の夢の共演』と題された、金属加工メーカー大信製作所さんの企画。

松戸市の町工場的なメーカーさん、大信製作所のプレゼン。

こちらは熱伝導性のいい金属のおもりで丸い氷を作る装置を販売しているそうだが、「宇宙のロマンを感じられる氷を作りたい」ということで紹介されたのが、こちら。

宇宙感は「★」で表現。これだってちゃんと宇宙ビジネスだ。

他のチームが『力触覚技術を適用したロボットアームによる宇宙での作業の高機能化』や『宇宙テザー技術をつかった宇宙環境計測技術の開発』といったハードなプレゼンを繰り広げる中での、星形の氷。うーん柔らかい。
大信製作所さんは3分のプレゼンタイム中に「他にも、月の形の氷とか富士山の形の氷を作りたい」と発言して、審査員から「月はともかく富士山は宇宙関係ないでしょ」と突っ込まれていた。柔らかすぎる。

 

こちらは、タレントの黒田有彩さん(お茶の水女子大学理学部物理学科卒!)による『宇宙旅行フェス』プレゼン。

「今後は宇宙旅行のコストが大きく下がるため、民間人もどんどん宇宙に行きます」という話から始まり、「なので、宇宙に行く人をお祝いするため、ロケット打ち上げ基地で友人知人を集めてパーッと盛り上げましょう、というフェスを企画します」と来た。
宇宙旅行の代理店を作るのではなく、その周辺のイベント企画会社を作るらしい。いきなりのニッチ、いきなりのフリンジである。高速道路が完成する前から「SAでご当地食材を使った丼フェスをやります」という感じだろうか。

理系女子タレントの黒田有彩さん。緊張でプレゼン内容がトンでしまったらしく、ちょっと慌ててた。

現時点で宇宙旅行にかかる費用が2500万円ほど。それぐらいかかるなら、発射前にでっかくイベントでパーッと盛り上げて欲しいという気持ちは分かる。
ただ自分としては、もし「友人が宇宙に行く」なんて事態になったら、あまりのうらやましさと妬ましさにお祝いする気には絶対なれないけども。
あと、不謹慎ながら生前葬パーティーみたいだなとちょっと思った。

 

もう一つ、個人的に興味深かったのが、医師の石北直之さんによる『嗅ぎ注射器 宇宙へ』というプレゼンだ。

今後予想される火星往還など長期の有人宇宙ミッションでは、宇宙飛行士は急病やケガをしても手術を受けることができない。宇宙空間で全身麻酔をする方法が無いからだ。
一般的な静脈注射麻酔は医師の厳密な管理が必要になるし、吸入式麻酔機は巨大すぎて宇宙に持って上がるのにやたらコストがかかるのだ。
現時点でも、ISS(国際宇宙ステーション)の宇宙飛行士が急病になった場合、緊急帰還させるしか方法は無いらしい。

宇宙飛行士、大変だ!

まず、そこから「へー!」である。
そういえば以前、若田宇宙飛行士もなにかのインタビューで「ISSの宇宙飛行士が一番怖いのは盲腸(虫垂炎)だ」って言っていた。そりゃ、せっかく宇宙に上がったのに、緊急帰還させられるのはイヤだろう。麻酔無しで開腹手術はもっとイヤだけど。

そこで石北医師が開発したのが、手のひらサイズで重さ55gと超軽量の吸入式の麻酔装置なのだそうだ。
手動式の人工呼吸器に組み合わせることで、安全かつ低コストで、どこでも全身麻酔が可能になるという。

超コンパクトな吸入式麻酔機の現物。みごとスポンサー賞(ANA)を受賞!

今後は吸入させた麻酔ガスを取り出してリサイクルする機構を開発するとともに、ISSでの運用試験をしたいと考えているそうだ。

 

これらの他にも、海上に農地フロートを浮かべて農作物を地上の2倍収穫できるようにする(人工衛星の観測データで農作に最適な場所を選ぶ)とか、月の砂を建材にした月面基地建設計画など、やたらと夢の広がるプレゼンもあり、聞いていてかなりのワクワク感を堪能できた。

人工衛星の監視データから算出したベストな位置に農場フロートを浮かべて、野菜を作る計画。

このS-Booster、大賞は300万円(今回は『人工衛星の観測データで飛行機の飛行経路と高度を最適化する』という内容のプレゼンを行った松本紋子さんが受賞)、スポンサー賞で100万円というなかなかのビッグコンテストだ。
ふやふやに柔らかい企画でも全然ファイナルまでは行けると分かったので、誰か宇宙文房具の企画、一緒に立ててみませんかね?月面(気温-200℃〜+150℃)でも使えるフリクションボールとか、そういうの。