発明おじさんのマニアックすぎる文具

ISOTでは、個人が発明した「マニアックすぎる文房具」が「暴走気味の情熱」により製品化してしまい、さらに「過熱してブース出展」ということがたまにある。そんなにしょっちゅうではないが、2年に1つぐらいのペースで出るケースだ。
過去の例で言えば、片手でセロハンテープが貼れる『ハリマウス』や、人間の肩の動きに着目した扇形の変形ノート『伊葉ノート』などがそれにあたるだろう。
どれも発明者個人のニッチな嗜好と「これいけるで!」という思い込みがグツグツと溢れていて、きちんとしたメーカー製品にない泥臭さと面白さと、局所的な便利さがある。発明おじさん文房具、個人的には見逃せないジャンルなのだ。

で、ISOT2018にもいたぞ、すごい発明おじさん。
V.SPARKの川崎さんは、以前に某筆記具メーカーで、文房具好きなら誰もが「おお!アレを!」と言うようなゲルインクボールペンの開発にも携わっていたという人である。

そのガチ系のおじさんがメーカーを退職したあと、「俺はこういうペンが欲しかったんだ!!」という思いから起業して独自開発、製品化までしてしまったのが、Twinkle Starシリーズの『2色ボールペン 赤黒』『新ボールペン V』『暗記&チェックペン』。

この3本、直液式並列ペンとでも言おうか、かなり特殊な…というか、ド変態な構造をしている。
まず並列の部分、ペン先がこちら。

ペン先が2本、見たまんま並列に2本並んでいるのはお分かりいただけるだろう。
一見不思議な形と思うかも知れないが、例えば赤黒2色の場合、色の切り替えをするときは手元でペンをくりっと回すだけ。持ち直してノックしたり、ロータリーで切り替えたりという手間なく2色が素早く使い分けられるので、なかなか合理的なのだ。
とはいえ、並列ペン自体はこれまでにもいくつか存在しているし、ド変態と言うほど特殊なものではない。

では何がどうド変態か?
先にも述べたとおり、ペンが2本横に並んでいるのに直液式、なのだ。

従来の並列2色ペンはだいたいが油性かゲルインクのもの。ペン軸の中は単に普通のペンリフィルが2本並んで入っているだけである。
だがTwinkle Starシリーズは直液式。しゃばしゃばした液体インクを使うのだから、そう簡単な話ではない。

じゃあインクをどうしているかというと、まずペン軸の中に黒のインクタンクを入れ、次にペン軸と黒インクタンクの隙間に赤インクを充填する。巻き寿司方式で2色直液式を実現しているのだ。

発明おじさんこと川崎さんは、「学校や塾の先生が答案を採点をするときの作業の多さとペンの消耗の悩みを解決したい、と思って作りました」と仰っていたが、いやー、どうだろう。
このペンからは、「直液式水性ボールペンの書き味が好きだ!」という情念がグツグツと溢れているように思えてしょうがない。
というか、そうじやないとここまで無茶なことを思いつく道理がないと思うのだ。

緑のラインマーカーと赤ボールペンが一体化。これで暗記学習もスイスイ進む?

ひとまずこのインクタンクの構造ができれば、あとはペン先を黒の0.4㎜と0.7㎜にする(新ボールペン V)のも、ボールペン+マーカー(暗記&チェックペン)にするのも好き放題。おそろしい構造である。

実際に書いてみると、直液式ならではのダクダクとインクの出るリッチな書き味が非常に楽しく、気持ちがいい。
Vコーンやビジョンエリートなどの直液式ボールペン好きには間違いない選択肢になるだろう。現時点ではまだ販路は少ない(すいません、モリイチでもまだ仕入れ予定無いです…)が、見つけたらとにかく即買いで試して欲しい1本だ。

 

2018年は発明おじさんビンテージイヤー

そしてなんと今年は発明おじさん文房具がまだあるのだ。
なんだこれ。ビンテージイヤーか。発明おじさんの当たり年なのか。

こちらは、大阪の横田さんという発明おじさんが考えた文房具を、これまた大阪のプラスチック製造メーカー エイジ化成が製品化したという『横田文具』シリーズである。
このシリーズ、昨年のギフトショーなどから参考展示を進めており、今年ついにネットショップで発売に至ったというもの。

『横田文具』シリーズに通底するコンセプトは、「“ちょっと不便”を解消する」。
どの商品もまさに「既存の文房具にあるほんのちょっとした不便さ」を解決して、ちょっと便利にすることを目指したものばかり。文房具の概念を根底から変革しよう!みたいな仰々しいものではない。

例えばハサミのケースが使う度にどこかにいって不便、というのをハサミ本体と一体化したケースで解消したり。ふせんを取り出すときにまとめて2枚3枚と取ってしまうのが不便、というのをダイヤル式で確実に1枚ずつ取り出せるふせんケースで解消したり。

正直なところ、すごい発明!と諸手を挙げて歓迎するほどの話ではない。
でも、あるとちょっと便利だろうなー、ぐらいのテンションで欲しくなるようなものばかりなのだ。
世界を変える大発明、というのは確かに素晴らしいけど、『横田文具』のように世間的にみんながなんとなく不便に感じてることを汲み取って解消する小発明だって、なかなかいいものだと思う。